私を本気にさせないで
「キス、してもいい?」
外はまさに嵐――。

雨風が打ち付け、雷が鳴り響く中、停電によって社内中の電気が落ちてしまおうとも、今の私には声を出せる術がない。

むわっと蒸し暑い熱気に包まれる狭い密室空間。
背後に触れている壁がひんやり冷たく感じるも、それも最初だけで次第に熱さを帯びていく。

「タイミングよすぎ」

暗闇の中で可笑しそうにクスクスと笑われると、どうしても彼の吐息を感じてしまい、変にドギマギしてしまう。

壁と彼に挟まれて、思考回路は一気に遮断される。
それでもこれだけは理解できていた。
今の私……もしかしたらけっこうやばい状況かも、と――。

暑さと変な緊張のせいで身体が火照っていく。
次第に暗闇にも慣れてきて、視界は怪しげに笑う彼の姿を捉える。

それは彼も同じだったようで、目が合うとより一層距離を縮め、わざと私の耳元で囁いた。
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