オトナな部長に独占されて!?
スマホの向こうで階段を下りていく足音と、クスリと笑う声がした。
「今夜の高村さんは、随分と謙虚ですね。
差し入れはお礼を言われるほどの物ではないので、気にしなくていい。
プランニングについては……。
何のことか分かりませんが、不確かなことは他言しない方がいいでしょう。
高村さんは自分の力で、今回の仕事をやり遂げたんですよ。大変立派です。
胸を張って、自分の成果だと主張していい。
さあ、もう帰宅して下さい。パソコンの電源は落としましたので。
高村さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様です……」
プランニングについて、やっぱりはぐらかされてしまった。
謙虚なのは、どっちなのよ……。
スマホをポケットにしまい、大きく伸び上がって空を仰ぐ。
雑居ビルの隙間に、黄色い月が見えていた。
今夜の月は、小さくてまん丸で可愛らしい。
今頃、部長も会社を出て、月を見上げているだろうか?
最近、何かにつけて葉月部長のことを考えてしまう。
それと同時に、鼓動が速く脈打つ。
それを、どうしてだろうとは、あえて考えないようにしているのだけど……。