心の中を開く鍵
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翌朝、秘書室にバックを置くと、デスク整理も簡単に済ませて唐沢さんのところに向かう。

「おはようございます。朝ごはんですか?」

片手であんパンをかじりながら、唐沢さんは眺めていた書類から顔を上げた。

「小腹が空いちゃってね。おはよう。早いのね、山根さん」

言いながら、また視線を書類に戻す。

「私はいつもこれくらいですから」

「昨日はどうだったの? 肉食系男子は」

……えーと。

「高崎さんは、だ、大学の先輩で、からかわれただけですよ」

「そうなの? 高崎さんとは何度か同席した事があるけれど、営業スマイル以外で眉間にシワがない彼を見たのは初めてだけれど」

眉間にシワ? 翔梧って、いつも眉間にシワを寄せて仕事をしているの?

「向こうの意図は明らかだったと思うけれど。平常心で仕事がしたいなら、顧問にバレないようになさいね」

それは葛西主任にも言われました。

「私、顧問とご一緒した事がないのですが、バレてしまったらどうなるんですか?」

「始終からかわれるか、全力でくっつけにかかってくるわ」

無言になった私に気がついて、唐沢さんは顔を上げると苦笑する。

「昔から好きなのよ。自分の事には鈍感な癖に」

「そうなんですか?」

「そうなの。ところで山根さん。来て早々悪いけれど、総務部が来ていたら重役会議室の鍵を借りてきて。後はお茶を10時に八名分お願いして。それからレジュメをテーブルに置いて」

キビキビ言われて姿勢を正した。

「かしこまりました」

新しい事はなんでもドキドキするけれど、わくわくもする。

嫌だと思えば嫌なことになるし、楽しいと思えば楽しくなるものだ。

会議室の一部に埃を見つけてしまって掃除し始めたら、あちこち気になるところが見えてしまって、そうやって動いているうちに、すっかり忘れていた……。
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