心の中を開く鍵
ガチャリと開いたドアから見えるのは、ポカンとした唐沢さんと翔梧の顔。

「……山根さん。確かに少し早いけれど、お客様だから……」

目を丸くしたまま唐沢さんに見上げられている私は、今度はホワイトボードのホコリが気になって、雑巾片手に椅子の上に片足立ち。

二人を見下ろして、みるみる顔を赤らめた。

「す、すみません!」

慌ててヒールを履いて、椅子を元に戻す。

俯いていたら、誰かが吹き出した。

……見なくても解るよ。どうせ翔梧でしょう。

「こちらこそ、すみません。早く着きすぎましたね」

声にも笑いが含まれているし。

「いいえ……」

時間を忘れていたのは私ですから、仕方がないと言いますか……。

すると唐沢さんが、やんわり笑顔を見せながら近づいてきて、ひっそりと耳元で囁く。

「とりあえず雑巾片付けて、その間に深呼吸してらっしゃい。常務たちには連絡してあるから、お茶を早めにお願いして」

「ありがとうございます。承知しました」

そそくさと会議室を出ると、廊下に誰もいないことを確認してから頭を抱えた。

あーもう! 失敗したわよ、恥ずかしい!

それでも雑巾を片付けて、総務部の人に内線でお茶出しをお願いすると大きく深呼吸。

こっそり会議室のドアに耳をあて、人が増えているのを確認してから中に戻った。

翔梧は真面目な顔をして、部下らしい人たちと話している。

総務部の人が少し早めにお茶を出してくれたのを確認している間に、唐沢さんがドアを開け常務たちも入ってきた。

最後に相談役顧問の、おっとりとしたお髭の笑顔が見えて一礼する。

それからひっそりと佇む唐沢さんの隣に立って、そしらぬ顔を決め込んだ。

こういう感じのミーティング初めてでわくわくしていたけれど、始まってから……。

ちょっとガッカリした。

……なんか、普通。
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