心の中を開く鍵
私だって、無言で別れようとは思っていなかったけれど。

せめて、まだ……話し合えそうな気がしていたのに、こんなんじゃ話もできる感じじゃないし。

私ね、就職決まったよ。
研修も始まるし、大学には卒業式以外にもう行かない。
会社に近いマンションに引っ越するけれど、私の部屋の鍵は渡していないから問題はないよね。

普通なら、こんな話はこんな時に思うのではなく、就活中に彼に向かって話すことだと思うけれど……。

寂しかった。

寂しくて、寂しくて、自分で自分が嫌な女になっていくのが解った。

まるで儀式のようにゆっくりと、誰もいない部屋の鍵を閉じる。


だから、さよなら。


鍵を新聞受けに投げ入れて、ガチャンと鉄が鉄にぶつかる音が響いた。















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