心の中を開く鍵
「お前なぁ、ここまで苦手なら苦手って、正直に言えよ」

翔梧はそう言って、私を抱き抱えたまま、近くのベンチに座った。

彼の膝の上に座って、彼にしがみついているというのは、私としてもどうかと思うけど……。

「だ、大丈夫……」

力が入らないけど。

「そんな風には見えない。とりあえずごめんな?」

優しく背中をさすられて、ほっと息をつく。

「大丈夫。ここ明るいし、私はここにいるから、翔梧、続き見てきなよ」

「アホか。お前がどういうつもりかは知らねぇけど、俺はデートのつもりなんだよ」

言われて、パッと顔を上げると、間近に困ったような苦笑が見えた。

「それなら、相手の嗜好も考慮しないと駄目じゃないの?」

「でもなぁ。アニメーションや、戦隊ものしか、他に近場で上映してなかったし……見たい映画があるって言った手前、それは避けたかった」

確かに……28歳にもなる男の人の見たい映画が、アニメや戦隊ものだったらびっくりするかもね。

「もしかして“見たい映画がある”って、単なる口実だったわけ?」

「……そうでも言わねぇと、誘われてくれないだろ」

ボソボソと言われて、ちょっと可笑しくなった。

なんだろう、初めてデートに誘う中学生みたいじゃない?
何となく必死と言うか、微笑ましいと言うか……。

考えていたら、背中を撫でていた手が指先に変わって、ビクリと身体を硬直させる。

「……しょ、翔梧」

「ああ。まだここ弱いんだ」

冷静に聞こえた声に、慌てて立ち上がって距離を取った。

確かに昔から背中は弱いけど!
なんてところで、なんてことを始めるつもりだったのよ!

思いきり睨むと、子供っぽい無邪気な笑顔が返ってきて気が抜けた。

「そ……そんなに見たい映画じゃないんだったら、他に行かない?」

「昼飯には少し早いけど、飯にするか?」

「そうね。どうせ土曜なんて混むんだし、先に食べても……って、朝ご飯食べてきてお腹空いていない?」

「朝飯とか、用意されてなきゃ食わねえよ」

そんなことを言いながら。学生と家族連れの多いファストフード店で軽くハンバーガーを食べて、街をぶらぶら歩くことにした。
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