心の中を開く鍵
「羽賀部長の正確なご予定は?」

私が振り返ると、後輩が眉を下げた。

「12時半から、三橋専務とランチミーティングが14時まで。その後は業務決裁の予定でした」

「あらら……じゃあ、お腹空いちゃうね~」

呟いたら、クスクス笑いが起こらり。

「お茶菓子は少し腹持ちするものにしましょう。先方もこの時間帯に来るということは似たようなものでしょうし。三橋専務にはミーティングのキャンセルと、お昼を取っていただくようにお伝えして」

パタパタ動き始めた皆を見ながらデスクに座り、長野室長から頼まれた文章整理を始めた。

些細なアクシデントなんていつもの事だ。本当、やり甲斐のある仕事だと思う。

そう思っていたら、観月さんがドアを眺めつつ溜め息をついた。

「最近の葛西さん。とても楽しそうに仕事されていますわね」

「まぁねぇ? お嫁さんもらって、張り切っているんじゃない?」

葛西主任が式を挙げたのは、つい先週の話だ。
相手はこの会社の医務室の女医さん。

「……あまり認めたくございません」

眉を下げる彼女に小さく笑ってしまった。

観月さんは、熱烈な葛西主任のファンだったもんね。

出世コースにも安定して乗っている葛西さんであれば、まさに婚活女子の注目株だし。急送倍率も高かったはず。

観月さんの場合ちゃんとした恋愛感情があったみたいだけれど、いつの間にか、どこか吹っ切った様子に安心もしていた。

「あなたなら、すぐに次が見つかると思うよ」

「山根さんは、どなたか良い人いらっしゃるんですか? いつも余裕ですよね……」

別に余裕でいるわけじゃないけれど。
< 6 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop