心の中を開く鍵
「ゲンコツ?」

「殴られたって言うより、上から下にゴツンとやられた」

苦笑する翔梧を横目で見て、それからその姿を想像して……。

笑っちゃいけないよね?

今はちょっと、笑える雰囲気でもないんだけど。あの営業部長さんが、翔梧にカミナリ親父みたくゲンコツをする姿ってさ……。

「……結果が解っていながら忠告もしないで、放り出すダチはダチじゃねえって言われたし、女に愚痴を言う男は最低だって言われたし」

「……愚痴ったの?」

「愚痴った……つーか、自分勝手な事をほざいただけだな。言っただろ、俺は最低な甘ったれなんだよ」

いや。何となく聞いたけど。とても偉そうに言われるから、どこか困る。

「だから、今でも付き合いのある大学時代のダチはひとりになったな」

あんなにたくさんいたのに?

「……って、お前も知っているんじゃないのか?」

「へ……?」

ぼんやりすると翔梧は目を細めて私を眺め、それから何を確認したのか、少しだけほっとしている。

「お前って、案外鈍感な?」

「翔梧に言われたくないわ!」

「それは否定できない」

翔梧は小さく笑って、それから繋いでいた手を持ち上げてその手の甲にいきなりキスをする。

「ちょ……っ! いきなり何を」

「何となく」

なんとくじゃないよ。こんな……恥ずかしいこと!

あなたそんなキャラだった?
確かにフットワーク軽そうだけど、そんな人じゃなかったでしょう?

「じゃ、なにか欲しいものあるか?」

急に切り替わった言葉に一瞬こけそうになって、慌てて立ち直る。

「急に言われてもないよ!」

「じゃ、俺の買い物に付き合え」

ぐいっと繋がれた手を引かれて歩きはじめた。
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