心の中を開く鍵
「か、帰ろう!」

「答えねーのか」

繋いだ手を引っ張りながら歩きだすと、翔梧のふてくされたような声が聞こえる。

「う、うるさいな。あなたは大丈夫な言葉でも、私には免疫もない言葉なんだからね!」

「いや。俺だってないよ。でも普通に言えるみたいだな」

「翔梧の基準が難しいよ!」

「俺にもお前の怒る基準がわからねぇよ」

怒っているわけじゃないんだけどさ。

「……照れてるだけか」

ぼそりと呟かれた言葉にムッとして振り返る。

振り返った先に差し出されたものに、目を見開いた。

銀色に光るもの。それを指が白くなるくらい力強く差し出している、翔梧の真剣な表情。

「……うちの、鍵だ」

「鍵……?」

「スペアキー。今のうちの」

……それはどういう意味だろう。

「ちなみに、リビングとキッチンはつながっている」

何が言いたいんだろう?

「ダイニングキッチン?」

「そうとも言う。風呂は脱衣所に洗濯機があって、トイレは別だ」

「ああ。そう?」

「二部屋あって、ひとつは俺の寝室と仕事部屋になってるが……」

ずいぶん、独り暮らしにしては広そうな部屋に住んでいるんだな……。
ぼんやりしていたら、翔梧が最後に一言付け足した。

「もうひと部屋は、空き部屋になってる」

「……はい?」

鍵と、真面目な表情の翔梧を交互に見る。

「まだ早いとは思うだろうけど」

うん。色んな意味で早いとは思うわー。

そして“合鍵”には、色んな思いが詰まっている。

嬉しかった思い出も、哀しくなった思い出も。

緊張している翔梧に、彼もそれをわかっているような気がした。
< 83 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop