お前、可愛すぎてムカつく。


桐谷くんを好きな女の子の気持ちがほんの少ーしだけわかった気がする。


彼といると楽しいし、無邪気に笑う桐谷くんを見ると微笑ましくなる。


それに美容室を出てから、ムカつくことも言わないし…。


いいんだけど、なんか調子狂うな。



「今日はありがとう…って、ゆなさんに伝えてて?」


「わかった」


家の門の前で、桐谷くんを見上げた。


月明かりの逆光で表情はよく見えなかったけど、やっぱ背高いしスラッとしててかっこいい…なんて思ってしまった。


これで口が悪くなければパーフェクトなのに。


あんなに話してたのになぜか急に無言になった桐谷君。



「じゃあ…またね?」



気まずいからそう言って門の中に入ろうとした時「榎本さん」と、呼び止められた。



「な、なに!?」


「………」


桐谷くんは何か言おうとしてるみたいだけど、ただ私を見つめているだけ。


「なんなの…?」


「…なんでもねぇ」


「はぁ!?」


この人私をおちょくってんの!?


送ってくれたりして、ちょっといいやつって思ってたのに!


「じゃあな」


ふっと、一瞬笑ってから背を向けた。



でも今日の桐谷くんはなんかいつもと違くて。




月明かりに照らされた桐谷くんの後ろ姿を見えなくなるまで見ていたことは、私の心のなかにしまっておこう。


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