好きだと言ってほしいから
トレーニングの後で
 翌週になり、私が備品庫で在庫をチェックして在庫リストを更新していると、葵ちゃんがやってきた。彼女は人事部福祉課で社員の慶弔や健康診断、社宅の管理などを行っている。給与計算も彼女の課の仕事だ。採用計画や人事評価、人材育成などは人事課の仕事になる。

 後ろ手で静かにドアを閉めた葵ちゃんが、小走りで近づいてきた。

「ねえ麻衣、もしかして逢坂先輩から何か聞いてる?」

 パソコンで在庫データを入力し更新ボタンを押す。在庫が更新されたのを確認してから振り返った。

「聞くって何を?」

 椅子に座ったまま葵ちゃんを見上げると、彼女はもう一度周りをキョロキョロ見回して、この部屋に誰もいないことを確認する。私の耳元に顔を近付けた。

「ついさっき、海販部の部長と課長が人事部に来て別室に入っていったんだけど」

「うん」

「それから暫くしたら逢坂先輩もやって来て、同じ部屋に入って行ったの」

「え……」

「私、ちょうどコピー用紙が切れて取りに行ってたからパーティションの向こうが見えちゃって。あれは絶対、逢坂先輩だった」

「うそ……」

 胸がざわつく。何だか嫌な予感がする。

「ねえ、麻衣。逢坂先輩、異動願い出してたり、しないよね?」
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