好きだと言ってほしいから
叶う夢、裂かれる心
 翌週の月曜日。定時近くになった頃、同じ部署の先輩に簡単な社内のお使いを頼まれた私は、六階の国内販売事業部に来ていた。稟議が下りた書類の写しを持ってきたのだ。

 エレベーターを降りると広いエレベーターホールがあり、真正面にある背の高いパーティションの向こうには自動販売機が並んでいる。それを挟んで東側が国販部、西側が逢坂さんがいる海販部だ。

 エレベーターを降りてすぐに、海販部の方を見たけれど、扉が閉まっていて中の様子を窺うことは出来なかった。心のどこかで逢坂さんに会えるかもと期待していたけれど仕方がない。ここは職場で、私たちは遊びに来ているわけではないのだから。

 諦めて左へ進み、国販部のドアを開けた。この部署もいわばエリート部署だからか、私のいるところと違って活気がある。やはり生産性のある部署は同じ会社でも雰囲気が全然違って新鮮だ。

 もちろん、私の職場にだっていいところはあるし、むしろ私は自分の職場が気に入っている。定時で帰れるとかそういう意味ではなく、みんな協調性があり雰囲気もいいから。
 確かに仕事内容は誰にでも出来るような地味なものだけれど、誰かがそれをやらなければ会社は回っていかないのも事実だ。それに私は自分の性格を知っている。あまり社交的ではない私には今のようなデスクワークがぴったりな気がしていた。

 目的の書類を渡し終え、エレベーターに乗ろうとしたとき、パーティションの向こう側から知っている名前が飛び出して思わず足を止めた。何となく息を殺して様子を窺ってしまう。

「逢坂もやっと念願かなった、ってところか」

「……ああ、そうだな」

 パーティションに背を向けて立ち止まっていた私の鼓動がドクンと跳ねた。逢坂さんだ。会えたら嬉しいと思っていたけれど、本当に会えるなんて。でも、今は誰かと一緒のようだ。少し様子を見てから声を掛けてみよう。そう思って私はしばらくそこで立ち止まった。
< 39 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop