白と黒のコーヒータイム

最初に仕掛けたのは

一刻も早く名村との物理的な距離を取りたかった、いや願わくば精神的な距離も適切値に戻したい。

しかし掴んだままの名村の腕と彼から向けられるまっすぐな視線がそれを許してくれそうになかった。

射ぬかれるような感覚に痺れそうだ。

「つまりは男臭さが欲しいって訳だ。仕草だったり行動だったり…例えば襲われる、みたいなさ。違う?」

名村から圧迫なんて今まで感じたことがない。

自意識過剰じゃなく絶対にいつもより言葉を交わす距離が近いと思う。

絶対に気のせいではない筈だ。

腕を外してくれと態度や空気で表してるのに名村は掴んだまま弛める気配はすらない。

それどころかこの密接な空気にやられて動揺している国見に返事を促すためなのか、はたまた意地が悪いのか名村は更に自分の方へと引き寄せてきた。

「わっ!」

「どうなんだよ、国見?」

「ち、違わない。」

覗いてくる視線は熱く、痛い。

目を逸らすことも許されず距離を取ることも許されないこの状況に国見は混乱していた。

これはいけない。

普段から友人ながらも大絶賛している男がこんなに至近距離で自分を見ているなんて。

よくない感情に踊らされそうで自分の身のためにならないと全身が叫んでいる。

いい男にいい角度と強烈な距離で見つめられたら舞い上がりそうだ。

名村の恋人である光希はずっとこの超絶イケメンを独り占めしていたなんて、やはりいい女はいい思いをするのだと国見は納得した。

しかし、それにしても名村は一体何に怒っているのだろうか。

少なくとも不機嫌に見えるその姿に国見の中ではこれといって理由が見当たらないのだ。

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