生徒に恋しちゃいました
4.懐かしい香り side広人
「無理すんなって言ったのに、また残業してんのかな〜」

桃子センセイの部屋はカーテンが閉まったまま灯りもついてなくて、家主が帰っていないことが予測できた。

俺は左手の腕時計を確認する。

「7時前か。 部屋の前で待つのは・・・さすがにウザいよな」

諦めて踵を返したとき、通りの反対側に白い車が止まった。

何となく車に目を向けながら歩き出すと、運転席から見覚えのある顔が降りてきた。

数学の小鳥遊??

ってことは助手席は・・・


想像通り、桃子センセイが小鳥遊に手を借りて助手席から出てくる。

二人は俺には気づかず、桃子センセイの部屋に向かう。

桃子センセイの足はやっぱり良くないみたいで、ひょこひょこと不自然な歩き方をしていた。

それを小鳥遊がさりげなくフォローして、桃子センセイが笑顔で答える。

もしかして小鳥遊は部屋に寄っていくのかな・・・

その場面はどうしても見たくなくて、俺は二人に背を向けて歩き出した。



二人は別に恋人同士って雰囲気じゃなかった。
普通に考えて、桃子センセイの足の怪我を心配して、小鳥遊が送ってくれたんだろう。

ただそれだけだと思う。

けど、俺は無性に腹が立っていた。

男嫌いって言ってたくせに、楽しそうじゃん。
小鳥遊はたしか独身だし、良い大学出てた気がするし、顔も悪くはないし・・・

桃子センセイとお似合いの歳だ。


「あーあ。かっこわりぃな、俺」

どこを取っても小鳥遊に敵うところのない自分に何より腹が立った。




















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