キスは目覚めの5秒後に
女子トーク
鳴り響く電話のベルに対応する社員たちの声。
キーボードを忙しなく叩く音。
今日のオフィス内はほとんどの男子社員がいるみたいで、いつもよりも騒がしい。
部屋のあちらこちらでスウェーデン語が飛び交う中、私は例の就業規則の訳に苦戦している。
定められた期日が今日なのに、まだ出来あがっていない。
どうにも訳が決まらないところが数か所あるのだ。
その内の一つがプリクラ。
社員証の項目に『証明写真を使用のこと。プリクラは不可』とある。
プリクラなんてスウェーデンにない言葉は、日本語のままにするしかないのかな、やっぱり。機械の名称だもの。
他にも『休憩時間にこたつを使用した場合、必ず電源を切ること』とかもある。
橘さんは会議に使う書類の一つだから、わかればいいぞと言っていたけれど。
でもこれがどんな職場の物か私にはわからないし、社員規則にないといけない項目なら、しっかり正確に訳さないといけないと思うのだ。
接客業であることは分かるけれど、旅館かホテルか飲食か・・・?
どう訳すかわからない言葉をみんなに訊いたら「なにそれ?」「なんのこと?」と逆に訊かれてしまった。
そりゃそうだ、こたつなんて知らないだろう。
省くか、そのままの言葉でいいか、橘さんに訊いたらそのままで一応注釈を入れてくれと言う。
プリクラは省いてもいいけど、こたつは入れろとも言った。
どんな基準でそう言うのか分からないけれど、結局、自分で頭を捻るしかない。