キスは目覚めの5秒後に
ズルイ男
そして、翌日。
夕暮れ迫る時刻、私と橘さんはパーティに出席するため、ストックホルムの郊外にある会場に来た。
「ここ、ですか?」
「ああデカイだろう」
デカイなんてものじゃない。
ここは本当に一般人の家なのだろうか。
王宮殿とまではいかないけれど、二階建ての建物にずらーっと並ぶ窓の数は、ちょっとしたホテルくらいある。
ダンスホール!?と思っていたけれど、これは本気のセレブハウスだ。
タクシーから降りたのは、噴水のある豪華なロータリー。
きちんと手入れされてる広い芝生に花壇。
植え込みにある樹木から鮮やかに彩った葉がヒラヒラと風に舞って落ちる。
綺麗・・・。
口を開けてぽーっと眺めていると、橘さんに間抜けに見えるぞ、と言われて慌てて閉じた。
間抜けだなんて、この人はもう少しやわらかく言えないのだろうか。
唇を尖らせて睨んでいると、彼は私に向かって肘をスッと差し出した。
「行くぞ」
「へ?」
「女は、普通ここに掴まるもんだ」
周りを見れば、成程、ペアで来ている人達はほとんど腕を組んで歩いている。お作法の一つなのだろうか。
腕に掴まって歩くなんて、元彼とだってしたことがないのに。
「・・・失礼します」
おずおずと腕に触ると、もっとしっかり掴まれとばかりに手の甲をぐっと押さえられた。
「失礼します。か、まったく色気がないな」
「だって、こういうの慣れてないんですっ」
こんなセレブパーティ初めてなのだ、仕方がないではないか。