鈴木くんと彼女の不思議な関係
嬉しいのは

 新作の台に手すりを取り付けていたときだった。無意識に腕まくりをした川村の腕をみて、多恵がびっくりしたような声をあげた。

「なにそれ。どうしたの?」
見ると、ものすごい引っ搔き傷ができていた。
「いや、ちょっと猫に。」
「川村くん家って猫も飼ってたんだ。」
「うん。可愛いよ。温かいし。柔らかくて。」

 どう見ても猫の引っ搔き傷には見えなかったが、俺は黙っていた。多恵もぜんぜん気付いてない訳でもないだろうが、あえては突っ込まなかった。川村はバツが悪そうに苦笑いした。

 作業を終えて、制服に着替える。ジャージを脱いだ川村の腕に目が行く。
「それ、あかりちゃん?」
「あかりちゃんはこんなことしませんよ。猫です。」
「猫なんか飼ってないだろ。」
「野良です。ちょっと、可哀想に見えたから、優しくしてみたら、予想以上に懐いちゃって。」
< 16 / 120 >

この作品をシェア

pagetop