気になるパラドクス
森のクマさん

1

*****



いつもの金曜日。土日に仕事を持ち込みたくはないから、皆、必死に仕事を終わらせる。
そんな中で、ギリギリに提出される書類程に嫌なモノはない。

「村居さん。お願いできますか?」

満面の笑みを向けて差し出された書類を受け取り、作成者の名前を見てから微かに眉を上げる。

「珍しい。磯村くんが就業間際に持ってくるの。急ぎですか?」

「あー……少し、今日は立て込んでいたもんで。月曜の午後にミーティングで使いますから、それまでに5部お願いしたいです」

「午後……14時の企画とのミーティングですか?」

苦笑して頷く彼に頷き返し、書類をクリアファイルにしまうと、付箋に締め切りを記入して未処理の箱に入れた。

営業事務に勤めて、もう12年。
同期のほとんどは結婚するか、転職してしまったし、最近は後輩たちにも先を越される始末。

「そう言えば、磯村くん、結婚おめでとうございます」

私の言葉に磯村くんは眉を上げ、それから爽やかに笑顔になった。

「ありがとうございます」

「これで少しはノロケが減る?」

「いえ。嫁が可愛いんで、どうでしょうか?」

あー……はいはい。ご馳走さま。

確かにあなたの嫁さん可愛いよね。口調は怖いし、眼鏡は古くさいし、髪はいつも結んでいたけど。
でも、実は肌は白いし、目はくりくりしているし、化粧っけはないけど、きっとあれは化粧映えすると思う。

私と言えばくるっくるの天パーで、短くすると爆発するから、いつも伸ばして三つ編みにしてるわ。
たまに伸びちゃった前髪を、邪魔くさいから結んでいたら“ちょんまげ”とか言われたし。
しかも、辛うじて二重のちょっと釣り気味の目は、黙っているだけで睨まれている気分になるらしく、初対面の人だと慣れるまで怖がられるし。

なおかつ、営業部のほとんどの男子を見下ろせるくらい大女よ。
< 1 / 133 >

この作品をシェア

pagetop