気になるパラドクス

2

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翌日、出社すると、営業部がざわついていた。

なんだろ?

不思議に思って後輩を見ると、にこっと微笑まれた。

「何があったの?」

「何かあったのは村居主任かと。昨日、営業三課の原さんと修羅場だったって噂です」

「え。修羅場じゃないよ。たぶん」

黒埼さんとごちゃごちゃしてたのは確かだし、原くんは逃げたけど。

「そして、フロッグすてっぷの方と手を繋いで帰ったとか?」

「それは否定しない」

間違いなく手を繋いだ。そしてその後は腕を組んだし、キスもした。

「別に有名人でもないのに。私の噂なんて、してどうするのよ」

片手を振りながら苦笑すると、他の後輩に真剣な顔をされる。

「原さんが問題なんですよ。販促部の子としばらく噂になっていたのは知ってますよねー?」

「うん。販促部のアイドルちゃんだったんでしょ?」

「そうそう。それで、うまくいかなかった理由が、両方の浮気だったそうなんです」

……それはそれは。途中から噂にも聞く耳持たなかったから、知らなかったなぁ。

「そんなことになってたんだ」

「アイドルちゃんの方は、浮気相手とうまく行ったみたいで、原さんは浮気相手と別れたって噂です」

そんなドロドロ泥沼な話には、みんなも興味津々だろうね。

「原さんが、クリスマス前に誰に行くのか、噂の的だったんですよねー」

「へぇ……」

それじゃ、私の噂はすぐに消えるかな。

だけど、原くんはそんな噂になるくらい浮気性だったかなぁ。
ある意味で真面目な人だったと思うんだけどね。

「販促のアイドルちゃんは、我が儘ですからねー? 今度の男もうまく行くんでしょうかねー?」

ウキウキと楽しそうな後輩に、どうやら原くんが、というより、アイドルちゃんが注目の的なのかと納得。

「あなた達は……下手するとただの意地悪になるわよ。いい大人なんだから放っておきなさい」

パソコンを立ち上げていたら、後ろから小さな笑い声が聞こえてきた。
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