気になるパラドクス

3

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翌日の仕事中。ニヤニヤひそひそ、そんな風にされながら、やりにくいことこの上無い。

「何なのよ。今度は何事?」

盛大に嫌そうな顔をして後輩を見ると、あっさり答えが返ってきた。

「先輩がいつの間にか、原さんと黒埼さんと時任さんを手玉にとった人に昇格したみたいです」

そんな昇格はお願いしていない。

彼女はさらっと言いながら、書類を確認して赤ペンで訂正して行く。

仕事しながら、全く関係ないおしゃべりできるなんて、なかなか高度なテクを持っている……じゃなくて。

「原くんとは別れたし、黒埼さんとは付き合い始めたし、時任さんは知らなかったわよ」

それが面白おかしく伝わっちゃったのかしらね。

「最近、社内で独身男性が減ってきていますし。クリスマスも近いし、特に恋バナや泥沼関係の噂話は、しばらく続くかもしれませんね」

「そんな根も葉もない事を言われてもなー。たまに悪意があって傷つくんだけど」

営業部の子は大所帯だから、良い子もいれば、そうでもない子や反発する子もいるわけで……。

「噂の的になっているのね。村居さん」

貼り付けたような笑みを見せながら近づいてきたのは営業三課の塚原さん。

わざわざ下の階から参上するとは見上げた根性……もとい、嫌な人の耳にも入ったみたいだ。

後輩たちも微かに嫌な顔をしたけど、ある程度塚原さんを知っている子はすぐに平和な顔になったし、知らない子は気にしてもいない。

私にとっては数少ない女性の先輩でもあり、三年前までは営業一課にいた彼女は、まさにお局様だった。

「真面目なあなたにしては珍しく、派手な噂になっているじゃない?」

「……そうなんですか? それは知りませんでした」

すっとぼけてみたけれど、塚原さんには通じないだろうなぁ。

「原くんと時任さんと二股かけて、さらにどこかの社長さんと付き合い始めたんでしょ?」

うりうり脇をつつかれて、迷惑そうな表情をしても突き進む。塚原さんは、まさにそういう人だ。
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