「それ、お預かりしますよ」

「助かる、真野(まの)ちゃん!」



ノベルティの校正を持って商談ブースに行こうとしていた私は、追い抜きざま先輩から書類を受けとった。

彼女が打ち合わせの資料をつくろうとしていたところに、来客の呼び出しがあり、どう見ても手に余っているふうだったからだ。


丸めた校正を小脇にはさんで、早歩きのまま数枚の書類をさっと確認する。

ブースに行く前に印刷室に立ち寄り、複合機に書類を突っこんで15セットのコピー予約をした。

こちらが4名、代理店がいつも7、8名だから、これだけあれば足りる。


終わった頃にとりにこようと、まずはブースへと足を向け、エレベーターを待つつもりもなく3階ぶんを階段で下る。

ブースの手前にあるウェイティングスペースに、彼はいた。



「三ツ谷さん」



声をかけるより一瞬早く、彼がこちらに気づき、ソファから腰を上げる。



「急にお呼びして、申し訳ありません」

「いえ、お戻しが早いのは、ひたすら助かります」



さすが真野さん、と笑うその顔は爽やかで、この寒い中、着ぶくれもせずにさらっと着こなしたジャケットがハイセンスだ。

黒のスタイリッシュな眼鏡のレンズ越しに見える輪郭は、実際の頬の線とかなりずれていて、そこそこ目が悪いことをうかがわせた。


ブースのひとつに案内して、さっそく校正の戻しを広げる。

彼には悪いけど、戻しが早いのには理由があるのだ。



「申し訳ないんですが、大変更をお願いしたく」



単刀直入に切り出しても三ツ谷さんは動じず、来た、と楽しそうに笑った。