オフィス・ラブ #∞【SS集】
新庄さんの車の横につけて、ぴたりととめる。

同じ車種の、同じ年式の、同じ色の、雰囲気まで似ている車が2台並ぶ形になった。

かなり飛ばしてきたらしく、アフターアイドリングをさせながら、運転席から長身の男性が降りる。


黒い、短い髪に、涼しく精悍な顔立ち。


年齢は、たぶん10歳近く上だけど。

これは。


似ている。





こんなこと、あるんだな。


テレビを見ながら、新庄さんがつぶやく。

結局あの後、時間も遅くなってしまったので、私たちは目的地には向かわず、来た道を戻った。

ニュースでは、私たちがあのまま進んでいたら、ちょうどぶつかったであろう、トンネルの落盤事故を報じていた。



「助けてくれたんでしょうか」

「それしか考えられないよな」



リビングのローテーブルにアイスコーヒーを並べながら、私は、あのサンダルの感触を思い出していた。

絶対、この手で脱がせてあげたのに。

あの後、置いたはずの助手席の床に、そのサンダルはなかった。

彼女が落とした空のペットボトルだけが、アスファルトに転がっていた。



「お盆だからなあ」

「帰ってきたんでしょうね」



特に怖いという気持ちはなく、ひたすらの感謝と、愛おしさと、少しの不思議さと。

できたら、ご両親にこそ会わせてあげたかったという思いだけがつのる。



降りてきた男性と新庄さんの間には、同じ車を愛する者どうしの仲間意識が、一瞬で働いたらしく。

奥さんの軽い説明だけで、すべてを理解した様子の旦那さんは、新庄さんと握手をして、娘がお世話になりました、と微笑んだ。


そのふたりがあまりによく似ていたので、私と奥さんは顔を見あわせて、思わず笑った。

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