オフィス・ラブ #∞【SS集】
「何か、しゃべってくださいよ…」
せっかく一緒にいるのに。
そうお願いしてみると、目の前の不機嫌な人は、それを隠そうともせず、読んでいたパンフレットをパンとテーブルに投げ出した。
「何を言えと」
「映画の感想とか」
「いまひとつだった」
…終わり?
続きを待っても、新庄さんはむっつりとコーヒーを飲むだけで、何も言わない。
まあ、確かに私の感想も、そんなもんだけど。
そもそも邦画に興味のない私たちが、なんでわざわざ観に来たのかというと、単に配給にうちの子会社が関わっているからで。
招待券を手に入れたので、じゃあドライブの目的地として、たまには映画館があってもいいじゃないかという話になったのだ。
正午をまたぐ上映だったので、少し歩いた喫茶店で、こうして遅めのランチをとって。
その間も、新庄さんは、ほとんどひと言も発しなかった。
「あんな、立ち話くらいで…」
「お前、あの男と関係があったろう」
なんでわかるの。
この人、たまにこういう驚異的な勘を働かせることがあるから、油断できない。
思わずぎくりと目を見開いた私を、じろっとにらみながら、新庄さんは片手で器用に箱から煙草を一本、取り出した。
口の端で煙草を噛むその顔に、苛立ちがありありと見てとれる。