イケメン御曹司に独占されてます
「福田、最近根を詰めすぎなんじゃないのか。仕事熱心なのは良いことだけど、ちょっと顔色が悪いぞ。ちゃんと睡眠はとってるのか?」


痛いところを突かれてびくりとする。この二三日、確かにあまり睡眠時間は取れていない。鋭い視線を向ける池永さんに目を合わせられなくて、私はキーボードを叩く手を止めることなく「大丈夫です」と答える。

プレゼンに使う会議資料を家に持って帰っていることも、池永さんは薄々気付いているに違いなかった。それでも、野口君と同じくらいの仕事はしなければと焦る気持ちが、私を意固地にさせる。


「……できるならいい」


尚も視線を合わせない私に、最後は突き放すように言って池永さんが席を立った。


その姿がフロアから消えてしまうと、体の緊張がようやく解ける。

あれから——池永さんへの恋心を自覚した月曜からむかえる、初めての金曜日。
この一週間、少しでも気がゆるめば池永さんのことを考えてしまい、そんな自分に辟易し——結果、仕事への集中を高めることで、なんとか心を平穏に保っていた。

実際、池永さんから指示された資料は、自分の持っている知識をフル稼働しなければ完璧には作れない。

特に経理の知識を要する部分を任されているのは、私に多少なりとも簿記の知識があるからだろう。


足りない部分を補う勉強もして、煩悩からも逃れられるこのミッションは、裏を返せば今の私には最適な課題だとも言える。


こうして集中していれば、余計なことを考えずに済むことも、私には楽だった。
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