イケメン御曹司に独占されてます
「あの……。仕事が大変で、余裕が無くて。避けたつもりじゃ無かったんです。すみません」


その言葉に、池永さんがまたフンっと鼻を鳴らした。


「それならそうとはっきり言え。会議資料のポイントだって、お前がいつ相談にくるのかってずっと待ってたのに」


つっけんどんに言い放ちながら、私の髪を撫でる手はとても優しい。耳の後ろあたりを細い指先で梳かれて、あまりの気持ちよさと連日の疲れとで、いつの間にかとろりと眠気が襲ってくる。


「例の資料、家でやってどうせ寝不足なんだろ? ちゃんと起こしてやるから、少し眠っていいぞ。……でも泊まらない。こんな安っぽい所にお前と泊まるのは、俺は嫌だ」


眠っていいと言われて、睡魔に耐えていた気力が途切れる。眠くて、気持ち良くて。ちょっとだけなら、いいかな。そう思ってうとうとしかけた意識の端で、池永さんが小さく呟く声がする。


「お前を見つけるまで、本当に頭がおかしくなりそうだった。もうこんなのは、絶対にやめてくれ」


そう言ってまた抱きしめる腕に、身を委ねた。

私だって、あんなに怖いのはもう嫌だけど。

今は池永さんの優しい腕に包まれる幸せで、また涙が出そうだった。
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