イケメン御曹司に独占されてます
記憶の糸をたぐり寄せれば
歓送迎会の翌日は雨だった。

ビルの十二階にあるオフィスの窓からは、濡れた道路におもちゃのように連なる、色とりどりの自動車が見える。

ガラス窓を伝う雨の雫がぼんやりと輪郭を滲ませて、現実感無く広がる作り物のような景色。じっと見ていると瞬きも忘れてしまう。こんなことではいけないけれど、何だか眠気を誘う。


飲み会の翌日に直行が多いのはいつのもことだけれど、それにしても今日はひどかった。第二営業部と第三営業部のデスクには、見事に事務職の姿しかない。

昨夜は宴席が異常に盛り上がり、二次会、三次会とかなり遅い時間まで続いたことを、七海子経由の野口くん情報で今朝知ったけれど、一次会のあと逃げるように帰った私には知る由も無かった。


あの時——岡田さんと池永さんが緊迫した場面になった時、絶妙のタイミングで現れた野口くん。

岡田さんの胸ぐらを掴む池永さん。
にらみ返す岡田さん。
その足元に崩れるように座り込む私。

一見いかにも男女関係のもつれっぽい、ベタな場面に一瞬ひるんだものの、野口くんは素早くふたりの間に入って池永さんの手を岡田さんから無理やり引き離し、ついでに私も一緒にそのまま部長の元に連れて行ってしまった。
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