強引な次期社長に独り占めされてます!
14:疑惑と説得
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表向きは何事もなく過ぎた二月。

それでも三月に入った決算期に、一日付けで、営業部の課長と営業事務の女子社員が退職した事が噂になる。

「いろんな憶測が飛び交っているよねー」

芳賀さんが呟くと、幸村さんがキリッと顔を上げた。

「いいから。あなたたちキッチリ伝票整理してちょうだい」

……私はちゃんとやってるもん。

「特に松浦さん。あなたさっきから手が止まりがちよ」

「……は」

幸村さんはキビキビ全体を見てるなぁ。

「すみません」

苦笑しつつ、伝票整理に戻る。

あのとんでもない会議からしばらく経つけど、表向きは何事もない風を装って水面下では主任たちは大わらわしていた。

ちなみに、営業課長と宮園さんが退職した以外にも少し変わった点がある。

今までやってこなかった営業部の書類も、少しづつ私に回されるようになった。

主任はいつも残業していて、席についている方が珍しいくらいになっていたし、メールの数も激減したし……。

そのメールの内容だって【お前は心配しなくてもいいから】だし。

……何も心配しなくてもいいなら、わざわざ言ってこなくても。

なんかね……何だかとっても複雑。

それって逆を返せば、やっぱり私も疑われていたんだろうな……主任自身に……って思うと、やりきれない。

主任のいない、空席のデスクを眺めて溜め息をついた。

疑っていた人間を“好きに”なる事なんてあるんだろうか?
もし“好きに”なっていないなら、何故、私に近づいてきたのか。

何もわからないから、余計に勘ぐってしまうし、疑い深くもなる。
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