冴えない彼は私の許婚
優しさをまた1つ知った
「おかえりなさいませ」玄関を開けると木理子さんが出迎えてくれた。

「ただいまお祖母様は帰ってる?」

「いえ、大奥様はまだお帰りになっておりません」

「そう、着替えたいので木理子さん手伝ってくれる?」

「はい、すぐに伺います」

部屋に入るとドレッサーの前に座り唇を触る。
恭之助さんとのキスを思い出し赤くなる。

トントンとノックの音「お嬢様」「どうぞ」木理子さんが来てくれた。
振り袖を脱ぐと木理子さんが畳んでくれる。

「ねぇ木理子さん恭之助さんの事どう思う?」

「素敵な方だと思います」

「そうね?イケメンよね…」

「いえ、外見も素敵だと思いますが私が言っているのは内面の事でございます」

「内面?」私は首を傾げる。

「はい、恭之助様はお嬢様がお稽古にいらっしゃらない事を一度もおお怒りになりませんでした。それどころかいつもお花を生けて下さいました」

「え?木理子さんが生けてたんじゃないの?」

「私にはあの様に生ける事など出来ませんから」

「でも…写真」

「はい、あれも恭之助様がもし碧海様が生けなくてはいけなくなった時の為にと」

恭之助さんは何もかも分かっていて私が困らないように…
彼の優しさをまた1つ知った。

「木理子さんこれからは私がお稽古に行きます」

「はい、そのほうが宜しいかと」

夕飯を済ませると私の大好きな薔薇の香りのバスジェルを入たお風呂に入る。
1時間かけてゆっくりと…

「うーん幸せ…ん?」

浴室の鏡に映ってる自分の首元に目がいく…

「え?赤くなってる…」

恭之助さんが付けた花びら?…
また恭之助さんとのキスを思い出してしまった。
キスは初めてではなかったけど、あんなキスは初めて…
昨日までは愛想もなく見た目も冴えない葉瀬さんなんてと思っていた私だが、今は彼に会うのが待ち遠しく思うなんて気持ちの切り替わりの速さに自分でも驚く。
パウダールームで髪を乾かしていると突然ドアが開いた。

「キャッ…朱音、ノックくらいしなさい」

「したわよ、ドライヤーの音で聞こえなかったんでしょ?」

「…なにか用?」

「あの後どこへ行ったのかなぁと思って?」

「恭之助さんの部屋よ」

「へーお姉様がいきなり部屋に行ったんだ?」

「変な想像しないで、ゆっくり話がしたかったからよ」

朱音は疑いの目を向けて聞く?

「なんの話?」

「色々よ」

「色々ね?まあその首元見たらだいたい想像つくけどね」

あっ…首元を慌てて隠す。



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