『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
丸っこい手がドアノブを握って現れた。

返事をもらった後、一度だけ再会した人がゆっくりと顔を覗かせる。



「こ…こんにち……わっ…!」




ふわっ…と抱きすくめられて、驚きで言葉を失った。

肉厚な体の中に抱かれて、あたしの心は一遍で溶け落ちた。



「ようこそ、俺の花嫁!」


嬉しそうに頬擦りされて、ペロリと頬にキスされた。

ビックリして目が丸くなる。

もしかしたら久城さんは、あたし以上に突拍子も無い人かもしれない。





「あ、あの…よ、よろしくお願いします……!」


このあたしがオタオタするのを初めて見た…と、父は後から大笑いしていた。

それくらい面食らって中へ入ると、久城さんは室内のあちこちを説明しながら奥へと進んだ。


「部屋は全部で五つ。ベッドルームとゲストルーム、他に洋室が二つと和室も一つ。バスとトイレとキッチンは一つずつ。後はこのリビングのみ……」


カチャ…と開かれたドアの向こうに、大きな窓が連なるリビングが広がった。

ざっと見積もっても、軽く10平方メートル以上はありそうな感じ。

部屋の真ん中にはシックな焦げ茶色の応接セットが置かれ、壁はパウダーベージュに塗られている。
床には色鮮やかな花柄のカーペット。リビングの片隅に置かれてあるガラスのコレクションケースには、何処かヨーロピアンな雰囲気が漂ってて高価そう。


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