『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
あたしは自分の責任や重圧から逃れたい一心で、この場所へ逃げ込んだ。

久城さんが理想通りの人だから…を理由に、簡単に受けてしまったお見合い。

少しハグされたぐらいで舞い上がって、式も披露宴も後回しの結婚を承諾した。




メグでなくても、そんなの普通は変だと思う。

これが自分の立場でなかったら、きっとやめた方がいい…と言うに決まってる。


…だけど、もう二度と人に関わるような仕事はやりたくないと思ってたあたしは、それをあっさり引き受けた。
生気を吸い取られるような毎日に、ずっとウンザリしてたから。


逃げられる場所ならどこでも良かった。
たまたま久城さんが理想通りの人だったから、これに乗っかれば幸せになれると思い込んだ。




「でも、実際はこれだよ…」



虚しく響く独り言。
これじゃあ職場で残業してる時と同じ。

重苦しい雰囲気の中でたった一人。
何も変わらないーーー。




「寂しいよぉ…」


犬の遠吠えのような声に泣き出しそうになる。


こんなのあたしは望んでなんかいなかった。

あのふわふわした体の人に、癒やしてもらいたくて結婚した。


こんなの望んでない。

願ってないーー。




「うわぁぁぁぁん…!」



感極まったら泣けてきた。

ここに久城さんがいたら、間違いなくくっ付いて離れないパターンだ。


でも、私は今一人で、彼は今夜、帰ってくるかどうかも分からない…。



「そんなのないよぉぉぉ……!早く帰ってきてぇぇぇ…!」



叫びながら泣いたって、誰に届く訳でもない。


こだまする泣き声を耳にしながら、あたしの結婚生活は幕を開けたのだ……。





< 49 / 249 >

この作品をシェア

pagetop