『ゆる彼』とワケあり結婚、始まりました。
置き去られた二人
その晩も、彼女は玄関先のマットの上で寝込んでいた。

一体どうしてそこで寝るのか分からず、昨夜と同じように体を持ち上げてベッドへと運んだ。


「ん……」


甘ったるい声を出して、ころん…とこちら側を向く。

サラリと流れるストレートヘアの隙間から見え隠れする唇に、そ…と近付いてみた。


昼間、医師の前で見せびらかす様にキスしたことを思い出した。
彼女との間にある過去など知りもしない俺は、部屋を出て行った後の会話の内容を早く知りたくて仕方なかった。
キスしようとしたのを止め、彼女の体を揺り起こした。



「愛理……愛理さん……ただいま……」


夜中の0時をとっくに回ってる。
今頃ただいまと言ったところで、彼女が許してくれるかどうか……。


不快そうな皺が眉間にを寄った。ゆっくりと瞼を開けようとするが、まつ毛の先にくっ付いた白い固まりが邪魔をする。
糊のように下瞼に貼り付き、目を開けたくても開けられない様子だった。


ゴシゴシ…と目を擦り、瞼に付いた白いものを擦り落とす。
ネコのようなポーズにも見えるその格好に、プッと笑いが吹き出た。


「…あ……久城さん……おかえりなさい……」


朝は一旦、剛と呼んだのに、また苗字に逆戻りしている。
一日も早く婚姻届を出さないと、なかなか彼女の中では意識されないのかもしれない。


「ただいま。遅くなってごめん。…ばあちゃんは今日どうだった?困るような事してない?」


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