⁂初恋プリズナー⁂
トラウマ

スマホのアラームが鳴り響いた。


「……んっ…」


眠たい()を少し開けてぼんやり。

暦では春だけど、3月の朝はまだ寒い。

徐に枕元のアラームを止めると、微睡(まどろ)む中、夢の余韻に浸りながら瞼を閉じた。

そうすると、直ぐに意識が沈み、夢の世界に引き込まれていく……。

身体(からだ)がベッドに溶けそうになった、その瞬間。

またスヌーズ機能で再びアラームを響かせる。


「………」


耳を打つ音量が恨めしい。

眉間にシワを刻んでしまうけど、文句は言えない。

設定したのは私だ。

必死に眠い体を起こすと、名残惜しいベッドから流れ出た。

あぁ、どうして春はこんなに眠いの。

まだ開き切らない眠い目を擦りながら、洗面台に向かう。

今朝は、久々に懐かしい夢を見た。

あれは、私が小学1年の時の記憶。

あの頃は、大人も子供も関係なく、何も知らず、ただこの時間が永遠と続いていくのだと疑いもしなかった。

そして、大好きな王子様を純粋に慕っていた。


3歳の時に、お父さんの転勤で私達家族はこの土地に引っ越してきた。

その時、ご挨拶にお伺いした隣の家が、私のお父さんの同級生の家だと判明して。

懐かしさに話が弾み、勢いでそのまま引っ越し祝いとして、夕食を一緒にする事になった。

そこで出会っのが、颯ちゃん事、篠田颯吾(しのだ そうご)、8歳上のお兄さん。

私、黒川梨々子(くろかわ りりこ)の理想と呼べる王子様だ。

本当、颯ちゃんは保育園や家にあるお伽話の絵本に出てくる王子様、そのものだった。

幼いながらに一目惚れだったのは言うまでもない。

事あるごとに、ストーカーのように颯ちゃんを『私の王子様!』と追いまわす私を、両家の両親ズは微笑ましく見守り。

逃げるのを諦めた颯ちゃんは、私を『お姫様』と認識して扱ってくれるようになった。

私の両親は共働きで、お父さんは出張や帰りが遅い事も多々あり、お母さんも介護の仕事で夜勤で夜不在の時があった。

2人夜不在の時は、ベビーシッターさんが来て世話をしてくれた。

でも、ある日から颯ちゃんが私の面倒をみてくれるようになった。
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