フキゲン課長の溺愛事情
第八章 上司と部下の一線
「璃子、起きろ」

 耳もとで低い声がささやいた。毛布と同じくらい温かな声に、つい甘えた声を出す。

「んー……もうちょっと寝かせて……」
「ったく、しょうがないな」

 呆れたような声が聞こえたかと思うと、耳にふぅーっと息を吹きかけられた。首筋がゾクリとして璃子は反射的に跳び起きる。

「うきゃーっ! やめてくださいよ、課長!」

 鳥肌の立った首筋を手のひらで擦りながら、達樹を見上げる。彼は両手を腰に当てて、満足げに笑った。

「水上を起こすには、やはりこれが一番効果的だな」
「ち、違いますよっ。もうっ、こんなこと、二度とやらないでくださいねっ」
「二度とと言われても、こうやって水上を起こすのは今日で三度目だ」
「へりくつ課長!」
「文句を言うなら自分で起きることだな」

 そう言った達樹の口調が、いたずらっぽくなる。

「待てよ。もしかして水上が毎朝こうして寝坊するのは、俺に起こされたいからなんだな?」

 達樹の言葉に、璃子の頬がカァッと熱くなった。

「そ、そんなわけないでしょっ」
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