フキゲン課長の溺愛事情
第十章 上司とデート!?
 どこか遠くからスマホのアラーム音が聞こえてきて、璃子は徐々に深い眠りから浅い眠りへと引き上げられた。けれど、起きなさい、という理性の命令が手脚どころか脳に伝わらず、璃子は気持ちよくまどろみながらアラーム音を聞いていた。

「璃子」

 いつの間に部屋に入ってきたのか、達樹の声がする。起きないと耳フーされる、と理性が警告を発したとき、達樹が腰を下ろしたのだろう、腰のあたりでソファベッドが少し沈んだ。それをぼんやりと認識したとき、璃子の髪に大きな手が触れ、いたわるようにそっと頭をなでた。

「璃子は不思議な女だな」

 璃子は覚醒しきらない頭で達樹の低い声を聞く。

(おもしろいの次は不思議かぁ……)

 達樹の中での自分の評価がいまいちわからない。璃子が身動きしないので、眠っているのだと思ったのか、達樹がまたつぶやくように言う。

「歓迎会で璃子の事情を知って、ほっておけなかったんだ……。たぶん、美咲(みさき)の姿と重ねてしまったのかもしれないな。ずっと美咲への罪悪感が拭えなかったから……。璃子が笑えるようになれば、俺の罪悪感も消えるかもしれないと思ったんだ。だけど……」
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