フキゲン課長の溺愛事情
第二章 課長の歓迎会
 藤岡達樹が出向先のエコタウン研究センターから戻ってきたのは、今年の四月一日だった。彼が課長として就任した海外プロジェクト課は、課としては今年新設されたばかりで、璃子たちの広報室と同じ環境都市開発部の下部組織である。環境都市開発部はほかに営業統括課と国内事業課を擁する、総勢二十五名の部署だ。

 OSK繊維開発は衣類に使われる繊維の開発・製造から出発した歴史ある企業だが、低価格の輸入品に押されるようになって業務の幅を広げた。

 中規模の産業繊維開発企業を吸収合併したのは十年前。その後、それまでに培ったノウハウを活かし、工業廃水・家庭排水の処理システムに使うセラミック膜や、海水淡水化のための繊維膜の研究開発へと事業の軸足を移した。その一環として、ストックホルム郊外に官民共同で設立されたエコタウン研究センターの実証研究に参加したのだ。ほかの企業や大学とともに、エコタウン内で発生する下水を処理して農業用水、工業用水として再利用するプロジェクトを研究・実施している。その現地研究センターに出向し、プロジェクトに従事していたのが、ほかならぬ達樹であった。

 今彼は、宴会場の広い座敷席で、環境都市開発部の面々を前に挨拶をしているところだった。

「……ストックホルムでの五年間の経験を活かし、国内外でのエコタウン計画の加速と拡大に尽力いたします……」
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