フキゲン課長の溺愛事情
第五章 上司と部下の不思議な関係
 その日の仕事の後、璃子は会社から帰ると、啓一と三年間暮らした部屋から出て行く準備に取りかかった。

 荷造りが終わってから連絡をすれば、達樹が車で迎えに来てくれることになっている。

「まずはここから……」

 この二日、足を踏み入れていなかったベッドルームに入った。遮光カーテンが閉じられた薄暗い部屋に、啓一の姿を探してしまいそうになる。

(いるわけないのに……)

 誰もいないダブルベッドを見つめて感傷に浸る。あたり前のように眠っていたベッド。それとも今日でお別れだ。

「啓一……」

 璃子はいつも彼が寝ていた側のシーツを手のひらでなでた。

(私が出ていったら、和田さんがここで啓一と一緒に寝るんだよね……)

 悔しい、悲しい、腹立たしい。ひと言では説明できない感情が璃子の胸に湧き上がる。それでも、出ていかなければ、今日の友紀奈の剣幕から、近いうちに鍵を変えられてしまうだろう。そうなったらもっとみじめだ。
< 81 / 306 >

この作品をシェア

pagetop