SEXY-POLICE79
第一章:小さな嘘
悪い夢を見た。思い出すたびに涙がとまらなくて、とても淋しくて失ってしまった大切な人との記憶を自分は思い出していた。久しぶりに見た気がした。もう慣れていたものだと思っていた。でもやはりまだ胸が痛む。淋しいと感じてしまう。

薄暗い町に太陽が昇り町が一気に明るくなっていく。窓の隙間からカーテンを通して日が射している。風がカーテンをゆらりと翻した。ベッドが軽く軋む音がして寝返りをうっている。寝苦しいのかそれても日ごろの疲れが溜まっているのか眉間にはしわが寄せられていた。時計の針がもうすぐ六時を指し示す。そしてうるさい音が部屋中に響いた。

「う、う~ん……」

男はまだ寝たりなさそうに瞼を開ける。そして目覚まし時計のスイッチを止めた。男は大きなあくびをして布団から起き上がる。

男の名前は桐野幸四郎。職業は一端の刑事である。

桐野は目覚まし時計のスイッチを止めると、いそいそと仕事服に着替えた。白いシャツに鏡を見ながらネクタイを締める桐野。彼はこのネクタイを締めるのが一番苦手だ。なぜなら首が締め付けられているような感じがして気持ちが悪いからである。だからいつも緩々のまま付けていくのだが、仕事場に着いた途端いつも課長にばったり会っては直されてしまうのだった。まったく高がネクタイ程度だというのに課長はいつも口うるさくて、小言がめんどうに思った桐野は仕方なくネクタイをきっちりつけることにしたわけだ。

いい香りが台所から流れてくる。桐野は一人暮らしな上家事はいつも自分ひとりでやっているのだ。朝食を作りながら桐野は右腕に目を落とす。その腕にはちゃんと夢ではないある少年からもらった銀製のブレスレットがはめられていた。決して外すなと言われた自分を守るお守りだと言って渡されたものだった。

「…夢じゃないんだ」

自分が普通の人間たちとは少し違うってことは薄々気づいていた。気づいていたけど、気づいていないふりをした。離れたくなくて、置いていかれたくなくて、俺は自分自身にずっと嘘をついてきた。繋ぎとめたくて、愛しい、―――――大切なあの人の為に。
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