顔が熱いっ、心臓が煩いっ。


私は自分が掴む先にちらりと視線を向けた。


私が今掴んでいるのは、ぶつかった男性の肘のあたり。


ほんの少し摘むように掴ませて貰って歩いていた。


右手にはハンカチに包まれた壊れたメガネ。


このハンカチも男性のもので、この人は自分のハンカチを取り出して私のメガネを包んで持たせてくれた。


緩めていたネクタイを締め直した男性は私を見て言ったんだ。



『車で送ってもいいけど、知らない男の車って怖いでしょ?だから君が許せる所まで、一緒に行くね』



そうして、はいっと腕を差し出しながら、



『ほんの少しでいいから、掴んで歩けば安心でしょ?』



そう言ってふわりと微笑んだ。


凄く柔らかくて優しい顔で微笑んでくれたけれど、でもどこか有無を言わさないような顔で。


でも私は男性の紳士的な言動に根拠なくこの人は大丈夫だなんて思ってしまって、こうして捕まらせて貰っていた。



「歩くの早くない?大丈夫?」



覗きこむようにした男性を見上げて、私は頷きつつ、右手に持ったメガネにふと足を止めた。