季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
やっぱり大人は…早苗さんはずるい。

私が抵抗できないのをわかっているくせに。

こんなのダメだとわかっているのに、私は早苗さんの腕の中で抗う事も忘れ、それを受け入れた。

早苗さんは、夕べ順平に何度抱かれても埋まらなかった私の心と体の空洞を、いっぱいに満たしてくれた。

早苗さんに抱かれながら、満たされたはずの心が痛んで、あとからあとから涙が溢れた。

私はまた順平を裏切ってしまった。



本当はわかっていた。

いつの間にか私は早苗さんの優しさに溺れ、順平との想い出よりも、早苗さんと一緒の未来を歩きたいと思っていた。

私は早苗さんにこうして欲しかったんだ。

何も考えられなくなるくらいに。

順平を忘れるのが怖くて必死で目をそらしていたのに、なぜ今頃になって気付いてしまったんだろう。


早苗さんと会うのはもうこれきりにしよう。




早苗さんは泣き続ける私を抱きしめながら、優しく髪を撫で、流れる涙を指先で拭って、濡れた頬に何度も口付けた。

「弱味につけこんで、泣かせてまで朱里を自分のものにしたいなんて…卑怯だな、俺は…。」

「早苗さん…。」

「朱里、順平と別れて俺のところにおいで。一緒に暮らそう。」

私は首を横に振った。

一緒にいると約束したのに、また順平を捨てる事はできない。

「ごめんなさい…。早苗さんとはもう…。」

「朱里はそれで幸せ?」

「……ハイ…。」

「…わかった。」



別れ際、早苗さんは私を抱きしめて、嘘つき、と耳元で呟いた。









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