季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「やっぱビビってんじゃん。正直に“私はオバケが怖いです、助けて下さい”って言ってみな。そうすればなんとかしてやらなくもない。」

「え…。」

いい歳して、しかも昔自分が捨てた年下の男にそんな事言うのはカッコ悪過ぎる。

「言えねぇの?じゃ、俺帰るわ。」

しがみつく私を振り切って、順平は事務所を出ようとした。

その時私の中で、頑丈な糸のような物がバツンと激しく音をたてて切れた気がした。

「オバケ怖いです!!すっごく怖いの!!助けて下さい!!お願いだからここに一人にしないで!!」

順平は満足げにニンマリ笑った。

ああ。

終わった。

もしかしたら、オバケより順平の方が遥かに怖いかも知れない。



結局私は大きな荷物を持って、順平と一緒に事務所を出た。

順平はちっとも優しくない。

歩く速さを合わせてもくれない。

昔はあんなに優しかったのに。

重い荷物を持って必死で追い掛ける私の事を気にもとめない様子で、どんどん前を歩いた。

そんな調子で歩くこと、およそ10分。

ここに連れて来られ…いや、必死で順平を追い掛けてここにたどり着き、今に至る。



背に腹は替えられぬとはいえ、私は私の意思でついて来てしまった。

こうなったらもう開き直るしかない。

私は荷物を抱えてリビングに足を踏み入れた。

2LDKのその部屋は、殺風景で適当に散らかっていて、間違いなくそこで営まれている生活の匂いがした。



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