季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
マンションの手前で、ひとつ大きなため息をついた。

あれこれ考えるのはもうよそう。

どんなに考えたところで、過ぎた時間が戻るわけじゃない。

順平との関係も、壮介との関係も、もうやり直せないのだから。




部屋に戻り、牛乳を冷蔵庫にしまってテーブルの上にバターロールの入ったコンビニ袋を置いた。

順平はシャワーを浴びているようだ。

私は自分の部屋で着替えを用意しながら、順平がシャワーを終えて出てくるのを待った。

自分の荷物をいつ取りに行こうか。

今月末にはあの部屋を引き払うと壮介は言っていた。

手伝ってくれる人も車もない私は、何度も往復して重い荷物を運ぶ事になるだろう。

壮介と暮らし始めた頃はたいした荷物はなかったけれど、同棲していた2年の間に、かなりの量の物が増えたはずだ。

壮介と一緒に買った物はどうなるんだろう?

どっちにしたって、大きな物は運べない。

ここだって居候の身だから、あれこれ大きな物を置くわけにもいかない。

仕方ない。

大きな物はあきらめて、自分の運べる物だけを持って来よう。

物よりも、お金を返してくれないと困る。

壮介の勝手な都合でこうなったんだから、少し無理をしてでも、ある程度は返してもらおう。

壮介の都合ばかりが通るのはおかしい。

裁判になったら、壮介に勝ち目はないはずだ。

それでも私はそんな事を望んでいない。

自分の恥を晒して争うよりも、お金と平穏な暮らしを取り戻せたら、それでいい。


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