強引なカレの甘い束縛
親愛抱擁




週明け、普段よりも早い時刻に出社した私は、部内の人から提出されている出張旅費の処理や人事関係の手続きをいくつか済ませた後、会社を出た。

午後から始まるシステム開発の講習会にはまだまだ時間の余裕があるけれど、部長から初日は余裕をもって行けと言われたのだ。

打ち合わせで席を空けていた陽太に声をかける間もなく、私服に着替えた。

「お疲れ様です。途中でランチを食べてから行きませんか?」

「あ、そうしようか。会場の近くにはお店がたくさんあるって陽太が言ってた……し」

「はい。私もネットで場所を調べたら、入ってみたいお店がいっぱいあって、楽しめそうですよ」

会社のロビーで待ち合わせをしたのは稲生さんだ。

まだ入社二年目だというのに、今日私が参加する講習会に彼女も参加するらしい。

「萩尾さんが講習会に参加するって聞いて、私も大原部長にお願いしたんです。事務職採用でも、そういう講習会に参加できるチャンスがあるっていいですね」

「あ……そうなんだ」

駅までの道のりを並んで歩きながら、稲生さんは明るい声で話している。

自ら志願してわざわざ講習会に参加するなんて、そのやる気には感心してしまう。

私が入社二年目の頃なんて、ようやく自分の担当する仕事を滞りなく処理できるようになって満足していた程度だったのに。

もちろん誰もが私と同じペースで仕事を覚えるわけではないけれど、とくに向上心もなく日々の仕事を難なくこなせればそれでいいと思っていたし。

それはまあ、私の特異な子ども時代も影響しているんだけど。

とにかく稲生さんの成長と頑張りはすごいと思う。

「私、いつか総合職試験に合格して、システム開発の仕事をしたいんです。これまでその経験はないんですけど、入社して初めて開発の勉強を始めた人も多いですからね」

あ、それって陽太のことだ。


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