強引なカレの甘い束縛


「さ、行くぞ。今日ここに来た一番の目的はこれなんだから、七瀬は俺のとなりで笑って頷いてろ」

「え? ちょっと、なに言って……」

「うるさい。説明は後からだ。大原部長にからかわれようが仕事を増やされようが、欲しいものはこの手で掴む。……あ、今掴んでるけどな」

陽太は軽く笑い声をあげ、握りしめている私の手を持ち上げてじっと見る。

欲しいものはこの手で掴むなんて、なんのことだろう。

おまけに今掴んでいるもの、それはまさに私の手だ。

大原部長のもとへ足早に向かう陽太の背と、つながれた手を交互に見る。

陽太が私の手を離す気配はまるでない。

ずんずん歩く姿は普段の陽太には見られない緊張感もあって、私は引きずられるようにあとをついて歩く。

「よ、陽太、ちょっと」

大原部長に挨拶って一体何のことなのかわからないまま、次第に大原部長との距離が小さくなる。

「俺に任せておけ」

「は?」

私にちらりと顔を向けたかと思うと、陽太は歩みを止めることなく大原部長と薫さんのもとへと向かう。

これから何が起こるのかわからないまま、私はもつれそうな足をどうにか動かした。

結局、私はここに、なんのために連れてこられたんだろう。

陽太の運転手、という簡単なものではなく、陽太があらかじめ企んでいた何かがあるに違いない。

ようやくそれに気付いたときには、大原部長夫妻が期待を込めた笑顔で目の前に立っていた。

そしてそれ以降私は、陽太が〝結婚を考えている女〟と認定され、驚きで目を見開いたまま黙り込んでしまった。

そして、人間、驚き過ぎると瞬きすら止まってしまうんだと、関係のないことを考えながら立ち尽くす私に向けられる視線は、どれも優しかった……。



< 62 / 376 >

この作品をシェア

pagetop