甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

帰りたい理由


その夜、顕が家に来た。普通にしようと心に決め、扉を開けて出迎えた。

「お帰りー!」
「なんだ。やたらテンション高いな。もう飲んでるのか」
「えっ? 飲んでない、飲んでない。いきなり(とても)シラフですけど」
しまった。早速カラ回っている。

「ご飯、作って待ってるって言ったけど、時間がなかったから、安定の鍋にしたよ」
得意げに伝える。

ワイシャツになると顕はキッチンで準備をしていた私の後ろから覗き込む。
「ああ、セリ鍋?」と嬉しそうに言うので
「うん。セリ鍋だよ。好きなの?」
「ああ。こっち来て初めて食べたときは、根っこなんか食えるかと思ったけどな。今は、好きだよ。香りもいいし」
「確かにセリの根っこ食べた事がない人から見たら、目を疑うかもね。でも、ここが美味しいんだけどね」

「なんか手伝うか?」と袖をまくるけど、
「あ、大丈夫、大丈夫。それよりビールと焼酎と日本酒と泡盛とワインとマッコリとスパークリングワインあるけど、どれにする?」
「久しぶりに聞いたな、それ。しかも酒の種類増えてるだろ」
「なんか最近、いただくこと多くてさぁ」
「へえ。じゃあ俺は、お茶にするかな」と顕は涼しい顔で冷蔵庫を開けた。

「ちょっと! 私のおもてなし、全てスルーしたね。まあ、いいけどさぁ」
「はいはい。じゃあ一杯だけな」と缶ビールを手にした。
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