甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

学生時代、付き合う男がダメ男ばかりでダメ男製造機と呼ばれていた友人を思い出した。

「確かに」
「まあ、別に小千谷がこの先恋愛で苦労しても構わないけど。相手は呪うなよ。感謝して見送ってやれ。得意の口先だけじゃなく、心からのな」
「なんか逝った人を見送るようですね」
「……そうかもな」
「そっか。って、得意の口先ってなんですか」
「まあ、そのお陰で仕事出来てるんだろうけどな」
「……誉められているのか、けなされているのかわからなくなりました」


「ありがとうございます」と心の中で呟いてみる。

彼に対してと、文句を言いながら残ってくれた課長に対して。

少しだけ胸の中が軽くなった気がした。
自分の中の何が彼をそうさせたか、今はまだわかってないけど、ちゃんと彼に心からの感謝ができる自分になろうとだけ思えた。



翌朝、目覚めるとソファーに横たわっていた。課長の姿はなくて、飲みかけの缶ビールとグラスは流しに置かれていた。

カーテンを開け、空気を入れ替える。

昨日返された鍵が、テーブルの上で朝日を浴びて光っていた。
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