甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「やっぱり何かあったのかよ」
「いや……わかりません」
「嘘いうな」と睨まれる。
「思春期みたいなものですかね」
思春期? と眉根を寄せた。

「なんだよ。あいつ、ドクターに恋でもしてんのか」
と言い当てられて返答につまった。

「いや……知りません。まあ彼氏いないって言ってたし、そういうのもあるかもしれませんけどね。恋したいなとかそういう感じじゃないですか」と誤魔化すが何か感づいたように
「T病院か……院長息子が戻ってきたってな」
「へええ。院長息子」
あいつかと呟く。中村から院長息子とまでは聞いていないが、なんとなくだけど当たっている気がする。
「まあドクターと結婚して辞めたって奴は前の部署でもいたな」

課長が北東北支社ににいた頃のことのようだ。まれにそういう話もあるらしい。

「だけどT病院は規模が大きいし、あいつが院長夫人というイメージはわかないし。傷つく前に止めておけよ」
「どうして傷つくってわかるんですか?」
「わかるだろ。中村みたいな素直な奴が経験豊富そうな医者の息子とだろ? 想像つかないね」
「それは課長が勝手に想像つかないだけじゃないですか。わかりませんよ。恋愛は始まるときは始まるんですから」

私だって課長が恋愛している姿は思い浮かばない。だけどこの人だって何度も恋愛をしてきたんだろう。そういうことと一緒なのだ。
始めてもないことをダメだと否定すること自体が嫌いなせいか、課長相手なのについムキになってしまった。
気づくがもう遅い。
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