甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

なんだ、好きなのか


「って、課長。ここって」

綾仁くんの働いているお店だった。
「お前が一緒に行こうって言ったんだろ」
「そ……それはそうですけど」
尻込みする私とは反対に課長は躊躇いもなく扉を開けた。

今日はカウンターの奥に綾仁くんではなく、オーナーの女性がいた。フロアの方に接客する彼の姿を捉える。
彼女は「矢嶋くん」と笑顔で迎えると私にも上品な笑みを見せた。
「やっと来てくれた」
「友達がいないからな」
「言うと思った。一人で来てくれてもいいのに」と課長と私におしぼりを手渡した。

「友達?」と尋ねるので「いいえ、会社の部下です」と答えた。
「そうなんだ。矢嶋くんにも慕ってくれる部下がいたのね」とさっきから課長をからかうあたりが、本当に友達なんだと実感させる。
友達いない、人に慕われないキャラなのだろうか。ちょっとおかしい。
彼女は関口(セキグチ)と矢嶋課長に呼ばれていたけど、下の名前は華(ハナ)さんらしい。大学時代の友達ということだった。
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