甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「えーっ? なんでですか? 行ってみた方いいんじゃないですか? ひとり暮らしでしたよね?」
「うん。そうなんだけどさ……」

怖い。
その一言が言えなかった。

彼の家に行って、彼に会えるのだろうか。
考えると、いろんなことが想像できる。
「ごめん。仕事忙しくて」と、バツ悪そうに謝る彼とか。
灯りが漏れる窓、鳴らすインターフォン、それなのに出ない彼とか。
「俺達ってまだ付き合ってたっけ?」と言う冷ややかな視線を投げる彼とか。
それから……。

「大丈夫っすよ。だぶん忙しいんすよ」
中村は励ますように言う。

「家に行ったら、やんごとなき事情で連絡とれなくてすまんって、土下座されるに決まってます」

「やんごとなき事情ね」と呟くと、「あの……言いにくいんですけど、それって自然消滅したいってことかもしれませんよね」と若槻が静かに告げると、その場が一瞬静まり反った。

「若槻さん、何言うんすか!」と、中村が慌てるけど、正反対のことを言う中村も若槻もそういえば、さっきから気の毒そうな顔をしている。

お互い思っていることは一緒なんだなと気がついた。




眠る直前にスマホで検索してみた。

『彼氏 連絡取れない 理由』 

私の頭が考えていたこと以外に浮かんだキーワードは、別れを考えている、忙しい、冷めた、そんな言葉だった。

誰が30を過ぎて2年付き合った男と自然消滅という別れがあるということを予測できただろう。
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