恋色シンフォニー
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「お先に失礼します」
勤務時間終了の5時半になった途端、席を立つ男がひとり。
あの男……今日も定時帰りか!

顔をあげたら、通路を歩く奴と目が合った。
「お疲れ様」
澄ました顔で言い、フロアを出て行った。
あんの黒メガネめ。
楽な仕事していいわよね!

この地味な黒縁メガネ男、三神圭太郎は、私、橘綾乃の同期である。
同い年の28歳。

ここは首都圏にあるドラッグストア本部。
私は商品部でコスメのバイヤー、三神くんは販促部のチーフ。

流通業界では、バイヤーなんて、激務の代名詞。
外出も多いし、毎日残業しないとこなせない仕事。
ところが役職手当が出ているので、残業代は出ない。
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