それだけが、たったひとつの願い

4.俺が俺である限り

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 二十一年前。
 台湾人の父と日本人の母の間に、俺が生まれた。

 悠菫(ヨウジン)という名は父親がつけたそうだが、母が『(すみれ)』の字を入れてほしいと父に頼んだらしい。

 よく考えると、男の名前に花の漢字を入れたいだなんて不思議なのだが、母はすみれが好きだったのだろう。
 住まいは台北市のはずれで、都会の喧騒から少し離れたところにある普通の一軒家に親子三人で暮らしていた。

 家のすぐ近所に住んでいたのがショウくんの家族だ。
 ショウくんには薫平(シュンピン)という四つ年下の弟がいて、男ふたりの兄弟だった。

 ショウくんは俺よりも五つ年上で、薫平もひとつ年上だったから、物心つく前から俺にとってはふたりとも良き“兄”であり、年下でひとりっ子だった俺をいつもふたりが相手をしてくれた。

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